平成17年度から25年度調査分析報告

 障害のある学生の今後の修学支援に関する方策を検討する上で必要な、全国の大学等における障害学生の状況及びその支援状況について把握するために、平成17年度から平成25年度における調査結果についての分析を行ないました。

調査の概要

詳細な分析報告(PDF)は、以下からダウンロードしてください。

はじめに

 我が国の障害学生支援を取り巻く状況は大きく変わりつつあります。昨年2月、我が国において障害者権利条約が発効し、来年4月に障害者差別解消法の合理的配慮規定等が施行される予定で、本年2月には、同法の施行に向け、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針が閣議決定され、この「基本方針」に即して主務大臣は「対応指針」を、行政機関等は「対応要領」を平成27年度に作成することとなっています。また、日本学生支援機構の第3期中期目標において、学生生活支援事業については、情報の収集・分析・提供の充実を図ることとされています。
当機構は、こうした状況を踏まえ、このたび、平成17年度から25年度までに実施した「大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」結果について分析し、その結果を提供することとしました。
 これは、障害学生支援の推移を障害種別や学校種別等で分析、把握することにより、大学等における障害学生支援の課題をより明らかにすることや今後の調査内容の改善に役立てることを目的としたものです。
分析に当たっては、「障害学生修学支援実態調査・分析協力者会議」の委員の協力を得て、我が国の障害学生の状況や支援の全体像を、障害学生数、支援状況、支援体制、入学時での配慮状況、卒業後の進路状況について、経年推移のほか、学校種(大学、短期大学、高等専門学校)や規模(学生数)による相違等について分析しました。特に発達障害については章立てして詳細に分析しました。
 本分析報告が、各大学等における障害学生支援の一助となれば幸いです。
 調査結果の分析にご協力、ご執筆いただきました研究者の皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。

第1章 障害学生数、障害学生在籍学校数

障害学生数

 平成25年度の調査によると、高等教育機関全体の障害学生数は13,449人であり、学生全体の0.42%にあたる。一方、支援障害学生数は7,046人であり、これは障害学生の52.4%にあたる。障害学生のうち約半数が支援を受けていることになる。障害学生数の経年推移としては、平成18年度以降増え続けており、平成25年度の障害学生数は平成18年度の2.7倍に達している。同様に、支援障害学生数も増え続けており、平成25年度の支援障害学生数は平成18年度の3.1倍に達している。中でも「その他」、「発達障害」、「病弱・虚弱」の障害種の障害学生数、支援障害学生数の増加が顕著である。一方、支援を受けていない障害学生数も平成19年度以降増え続けている。特に「発達障害」や「その他」の障害種で増加が目立っており、この点については今後の動向に注目する必要がある。

(1)大学

障害学生数、障害学生在籍率ともに平成18年度以降増え続けている。「その他(特に「精神疾患・精神障害」)」、「病弱・虚弱」、「発達障害(特に「高機能自閉症」と「ADHD」)」の障害学生数や支援障害学生数の増加が顕著である。また、「その他」と「発達障害」の障害種については、支援を受けている障害学生の割合が平成18年度から平成25年度にかけて、約2倍に増加しているが、「病弱・虚弱」の障害種では、そこまでの増加は見られない。「病弱・虚弱」の障害種で支援を受ける割合が増加しない理由についても検討が必要であると思われる。平成25年度の調査では、課程別に着目すると障害学生の人数は学部(通学)が多いものの、割合としては学部や大学院の通信制が高く、大学における障害学生は通信制の課程に通う傾向が強い。学科別に着目すると障害学生の人数は「社会科学」、「人文科学」が多いものの、割合は「芸術」、「人文科学」、「教育」が高い。

(2)短期大学

 障害学生数、障害学生在籍率ともに、平成18年度以降、全体的に増加傾向にある。平成18年度から平成20年度にかけて、一時的な減少が見られるが、これについては筑波技術短期大学が筑波技術大学へ改組されたことが影響している。「病弱・虚弱」、「その他(特に「精神疾患・精神障害」)」、「発達障害(特に「高機能自閉症」と「ADHD」)」の障害学生数や支援障害学生数の増加が顕著である。平成25年度の調査では、課程別に着目すると、学科(通学)に通う障害学生が多く割合も高い。学科別に着目すると、障害学生の人数は「家政」、「教育」が多いものの、割合は「人文」、「社会」が高い。

(3)高等専門学校

障害学生数、障害学生在籍率ともに、平成18年度以降増え続けている。「発達障害(特に「高機能自閉症」と「ADHD」)」の障害種が急増している。平成25年度の調査では、課程別に着目すると、障害学生の人数は(通学)が最も多く、割合も最も高い。

障害学生在籍学校数

 高等教育機関全体として見ると、障害学生在籍学校数、障害学生在籍学校率、支援障害学生在籍校数、支援障害学生在籍学校率のいずれにおいても平成18年度以降増え続けている。特に平成20年度以降、「発達障害」や「その他」の障害種の障害学生在籍学校数、支援障害在籍学校数の増加は顕著である。近年の「発達障害」や「その他」の障害学生が在籍する学校数の増加に伴い、「発達障害」や「その他」の学生に対して支援を提供している学校も増えている。
平成25年度の障害学生在籍学校率の結果を見ると、高等専門学校は、93.0%の学校に障害学生が在籍している一方、短期大学は、半数に達していない。障害学生が在籍しているかどうかについては、学校種別によってかなり格差があることが分かる。

(1)大学

平成20年度以降、「発達障害」、「その他」の順に障害学生在籍校数の増加が顕著である。

(2)短期大学

 平成20年度以降、「その他」、「発達障害」の順に障害学生在籍校数の増加が顕著である。

(3)高等専門学校

平成20年度以降、「発達障害」の障害学生在籍校数の増加が顕著である。

第2章 障害学生支援の実施状況

障害学生支援の実施校数・実施率

(1)授業支援実施校数の推移

 授業支援実施校数は、調査初年度の平成17年度は206校、平成18年度には397校、平成19年度には485校と調査開始からの数年間で大幅な増加推移を示している。この時期、障害学生の在籍者数も同様に増加しており、支援を必要とする学生の増加により授業支援実施校数が増加したものと考えられる。
 今後は、平成25年の障害者差別解消法の成立(合理的配慮規定等は平成28年4月施行)や平成26年の国連障害者権利条約を批准したことなどを背景に、さらに授業支援のニーズが増加することが予想される。

(2)授業以外の支援実施校数の推移

 授業以外の支援実施校数は、調査に盛り込まれた平成21年度は429校であり、その後も増加している。平成24年度までは授業支援の実施校数をやや下回る推移であったが、平成25年度の調査では授業以外の支援が授業支援の実施校数を上回った。

(3)学校規模別の授業支援実施校数・実施率

 平成25年度の調査によると、授業支援の実施校数は621校で、前年度の601校より20校の増加となっている。学校規模別の授業支援の実施率は、最も実施率が高くなっているのは学生数「10,000人以上」の規模の学校で97.0%、次いで「5,000人から9,999人」の規模の学校が89.6%、「2,000から4,999人」の規模の学校が76.5%となっている。一方、学校規模が小さな学校では、「500から999人」の学校で43.9%、「1から499人」の学校では23.1%と実施率が低い。学校規模が大きいほど高い実施率となる傾向がある。

授業支援の実施状況

(1)授業支援実施校数
 平成25年度の調査によると、授業支援を実施している学校(621校)のうち、障害種別の内訳は、「視覚障害」が171校、「聴覚・言語障害」が276校、「肢体不自由」が351校、「病弱・虚弱」が145校、「重複」が88校、「発達障害」が280校、「その他」が207校となっており、最も多いのは「肢体不自由」、次いで「発達障害」となっている。障害学生の増加に伴い授業支援の実施校数も増加しているが、やや緩やかな増加傾向となっている。
 障害種別の推移をみると、「視覚障害」「肢体不自由」はやや増加傾向、「聴覚・言語障害」はほぼ横ばいとなっている一方、「発達障害」「病弱・虚弱」「その他」は顕著に増加している。特に、「発達障害」は平成18年度に授業支援を実施していた22校から大幅に増加している。
(2)授業支援実施状況
 障害種に合わせて様々な支援が実施されているが、障害種によっては支援方法が徐々に変化していることも読み取ることができる。より良い支援方法への転換や機器の導入などに加えて、「発達障害」に代表される障害学生の新たなニーズへの対応が必要となっている状況ではないだろうか。
(3)学校種別の授業支援実施状況
 支援内容に関わらず、全体的に大学に比べて短期大学、高等専門学校の授業支援の実施率は低くなっている。
 学校種別の授業支援の内容で特徴的なこととして、情報保障に関する項目で大きく差異がある。例えば、「手話通訳」「ノートテイク」「パソコンテイク」の実施率を学校種別に比較すると、大学では「手話通訳」が13.6%、「ノートテイク」が34.4%、「パソコンテイク」が23.0%となっていることに対して、短期大学、高等専門学校では実施率が低くなっている。

授業以外の支援の実施状況

(1)授業以外の支援実施校数

 平成25年度の調査によると、授業以外の支援を実施している学校は651校であった。障害種別の支援実施校数は、「視覚障害」が88校、「聴覚・言語障害」が141校、「肢体不自由」が277校、「病弱・虚弱」が145校、「重複」が61校、「発達障害」が336校、「その他」が220校となっており、最も多いのは「発達障害」、次いで「肢体不自由」となっている。特に「発達障害」は授業支援よりも授業以外の支援が多くなっていることが特徴的である。また、「聴覚・言語障害」は授業支援の実施校数が多い一方で、授業以外の支援は比較的少なくなっている。

(2)授業以外の支援実施状況

 授業以外の支援は「発達障害」が最も実施校数が多く、実施率も高い。保護者・専門家・支援機関・出身校などとの連携の実施率が高くなっていること、また学習・社会的スキルの指導も高くなっていることから、支援の幅の広さが読み取れる。
 また、いずれの障害種でも「進路・就職指導」の実施率が高くなっており、障害学生の就職には一定の課題があることが推測される。障害学生の支援は授業だけにとどまらず、授業に間接的に影響する学生生活の様々な場面での支援も実施していく必要があるのではないだろうか。

第3章 障害学生支援に関する体制、研修・啓発活動等

障害学生支援に関する体制等

(1)平成25年度調査によると、「専門委員会を設置」と「他の委員会が対応」を合わせた840校において組織的な対応がなされている。「専門委員会の設置」は平成19年度から平成25年度の年間で57.4%増、「他の委員会が対応」は同6年間で13.0%減となっている。
(2)障害学生数が多く在籍する学校における専門委員会設置率は高い。障害学生数が少なくなるに従い設置率は減少するが、在籍しない学校においても56.7%の設置率がみられる。なお「対応する委員会がない」学校が350校ある。
(3)「専門部署・機関を設置」と「他の部署・機関が対応」を合わせた1,044校において組織的な対応がなされている。専門部署・機関等の設置率は、障害学生数が21人以上の学校では98.7%、同20人から人の学校では87.5%を超えている。
(4)「専門部署・機関を設置」する学校(101校)は平成19年度から平成25年度の年間で2.3倍増となっているが、その反面「対応する部署・機関がない」学校が146校ある。
(5)「規程等がある」学校は198校にとどまり、整備が進んでいない。また規程等の整備状況は、障害学生数が少なくなるに従い減少する傾向がみられる。
(6)障害学生支援担当者の中で「専任スタッフがいる」学校は109校で、「兼任スタッフがいる」学校は955校、「外部に委託している」学校は462校となっている。
(7)専任スタッフの内訳は、「職員」「コーディネーター」「カウンセラー」「教員」「支援技術を持つ教職員」「医師」の順となっている。兼任スタッフの内訳は、「職員」「教員」「カウンセラー」「医師」「コーディネーター」「支援技術を持つ教職員」の順となっている。外部に委託の内訳は、「医師・カウンセラー」「専門技能者」の順となっている。
(8)障害学生支援担当者の職種を障害学生在籍数別にみると、障害学生数が多くなるに従い「専任スタッフがいる」学校が増える傾向にある。

障害学生支援に関わる研修・啓発活動実施状況

(1)主な研修・啓発活動を内容別にみると、「障害学生と支援スタッフ(支援を行う学生など)に対する相談対応、懇談会等の実施」、「障害学生に対する就職支援、キャリア教育支援の実施」、「学外における各種研修会等への教職員の派遣」、「関連する講義(ボランティア論など)の開講」の順となっている。
(2)研修・啓発活動の中で「障害学生と支援スタッフ(支援を行う学生など)に対する相談対応、懇談会等の実施」は平成21年度から平成22年度にかけて急増している。「障害学生に対する就職支援、キャリア教育支援の実施」は平成24年度から平成25年度にかけて増えている。これに対し「関連する講義(ボランティア論など)の開講」は減少傾向にある。


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第4章 障害のある生徒の受入、障害学生の卒業後の進路状況

障害のある生徒の受入に関する配慮及び入学者数

(1)平成25年度調査によると、障害学生配慮に関する情報等を「要項(紙)およびホームページに記載」する学校は569校で前年度から6.1ポイント増、「要項(紙)のみに記載」する学校は281校で前年度から3.1ポイント減となっている。
(2)入学者選抜における事前相談の受け付け方法は、「全学共通のルールで期間を設けている」学校は441校で前年度から1.8ポイント増、「特に告知はしていないが、相談があれば対応する」が次に多い。
(3)入学者選抜における配慮(特別措置)に関する事前相談の窓口を「入試に関する事務を担当する部署」とする学校は1,130校となっている。特別措置の主な内訳は、「松葉杖の持参使用」「車椅子の持参使用」「別室を設定」「試験場への車での入構許可」「補聴器の持参使用」の順となっている。
(4)施設設備の整備率が高い項目は、屋外では「専用駐車場」「手すり、スロープ、階段昇降機等」、屋内では「障害者用トイレ」「エレベーター」、支援機器では「車椅子、簡易ベッド等」となっている。整備率が高い項目は校種別にみてもほぼ共通する。
(5)入学者数を障害種別にみると、大学では「病弱・虚弱」「肢体不自由」「その他」「発達障害」、短期大学では「病弱・虚弱」「その他」「発達障害」「肢体不自由」、高等専門学校では「発達障害」「病弱・虚弱」「聴覚・言語障害」の順となっている。
(6)各入試において「特別入試」を受験した生徒は前年度から2.6ポイント増となっている。特別措置の実施を障害種別でみると、肢体不自由、聴覚・言語障害、その他、視覚障害、病弱・虚弱の順となっている。
(7)特別措置の主な内容は、視覚障害では「拡大鏡等の持参使用」「拡大文字問題の準備」「別室を設定」、聴覚・言語障害では「補聴器の持参使用」「文書による伝達」「その他」、肢体不自由では「車椅子等の持参使用」「試験場への車の入構許可」「トイレに近接する試験室に指定」、病弱・虚弱では「トイレに近接する試験室に指定」「別室を設定」「その他」、発達障害では「別室を設定」「その他」「文書による伝達」の順となっている。
(8)特別措置による受験者数は平成19年度から平成25年度の6年間で1.6倍増となっている。合格者数は同6年間で1.4倍増、入学者数は同6年間で1.3倍増となっている。

障害学生の卒業後の進路

(1)平成24年度、通学制の最高学年に在籍する障害学生は2,480人、卒業生が1,881人であることから卒業率は75.8%で、前年度から2.1ポイント減である。卒業率は平成18年度から平成24年度にかけて緩やかに低下している。障害種別でみると「その他」(58.4%)、「病弱・虚弱」(78.6%)、「発達障害」(68.3%)が低いのに対し、「聴覚・言語障害」(89.2%)、「肢体不自由」(83.7%)は比較的高くなっている。
(2)進路状況は就職が919人で前年度から10.6ポイント増、進学が247人で前年度から38.0ポイント増である。就職者数は平成20年から平成24年度にかけて着実に伸び、進学者数は微増となっている。就職・進学等以外の者については進学者を上回る伸びを示している。
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第5章 発達障害学生への支援状況

診断カテゴリー別構成比

 発達障害者支援法で定義づけられた種類の診断カテゴリー別の人数を診断書有りの学生で見ると、高機能自閉症等の割合が63.7%と最も多い。文部科学省の調査によると、小・中学生では、最も人数が多いカテゴリーは学習の問題である(51.7%)。また、米国でも障害学生の中で人数が多い診断カテゴリーはLDとADHDである。日本ではLDやADHDのある人が大学等に入学しにくい、大学等に進学することを選ばないという可能性もあるが、LDがあることに本人も周囲も気づきにくく、未診断で在学している可能性もある。

発達障害学生の在籍率、在籍数

 高等教育機関の種別に発達障害学生が在籍する学校の割合を比較すると、高等専門学校で割合が高くなっている(診断のある学生が在籍する学校の割合が78.9%)。大学では51.9%であるが、短期大学では21.5%と低い。高等専門学校は多くの学校が工学系で、大学でも工学系は比較的在籍率が高めの専門領域であること、また、高等専門学校には高校のようなクラス担任制があることから教員が学生の様子を把握しやすいことなどが理由として考えられる。一方、短期大学は規模が小さめで、学生支援の専門スタッフを常勤で配置しにくいことも、把握する数が少なめになっていることと関係している可能性がある。
 学科専攻別に発達障害学生の在籍率を比較すると、大学では理学系(0.31%)と芸術系(0.29%)の学部で比率が高めになっていることがわかる。低めなのは保健系(0.05%)、教育系(0.06%)、家政系(0.06%)であった。家政系の学部以外は対人的な要素を含む職業の資格に直結しており、発達障害のある人がこのような職業を選択しにくいということと関係している可能性が考えられる。

発達障害学生への支援内容

 発達障害学生への支援内容を授業内外に分け、支援実施率を学校種別に比較すると、授業外のカウンセリング、保護者との連携、学習指導などが一貫して多い(大学、短期大学で40%台から50%台)。社会的スキル指導も大学、短期大学で40%台と多くなっている。一方、授業内での支援は、全般に低くなっている(高等専門学校での教室内座席配慮が31.1%でそれ以外の授業支援はすべての学校種で20%以下)。
 学校規模別に、授業内外の支援実施割合を見ると、10,000人以上の規模では32.8%の学校で実施されているのに対し、2,000人から9,999人の規模では10%台前半、そして1,000人未満になると%以下となる。一方、授業外での支援は、5,000人から9,999人規模の学校において10,000人以上の学校と同程度実施されている(80%前後)。規模が小さくなるにつれて、授業外支援実施校の割合も小さくなっていく。
現状では、学生の支援ニーズが授業外にあるということも考えられるが、授業外での学習支援の実施割合も低くない。このことから、授業担当者が合理的配慮を行うという教育型、権利保障型のモデルよりは、専門家が授業外で支援するクリニック型のモデルでの支援が主流になっていると考えられる。
学校規模別に、授業以外の支援の内容別実施校の割合を見ると、10,000人以上の規模では、学習指導の実施校の割合が87.9%と最も高く、学習指導の実施校の割合は500~999人の規模の学校が最も小さい。カウンセリングは2,000人から9,999人の規模で65%前後と高い値を示しているが、1000人未満の規模では、40%台前半である。保護者との連携は、500~999人の規模の学校を除き、50%台である。500人未満の規模の学校では、カウンセリングが42.7%であるのに対し、保護者との連携や学習指導が50%を超えている。また、大きな割合ではないが、出身校との連携が他の規模と比べると高い(22.7%)。小規模であることからカウンセラーを配置することが難しい一方、地域に根ざした学校運営を行い、保護者や出身校とも連携しながら丁寧に学習指導を行っていると考えられる。
授業内外の支援の内容別の経年推移を見ると、授業支援に該当するような支援が行われるようになったのはごく最近だということがわかる。休憩室の確保や教室内座席配慮などは、授業や試験自体の変更・調整とは言えない。注意事項文書伝達、実技・実習配慮、試験時間延長・別室受験、講義内容録音許可など、学生の個人特性(機能障害)に応じて授業や試験のやり方の一部を変更するような対応を実施していた学校の数は、平成20年には30校に満たない。平成25年度には大きく増加したとはいえ、まだ100校に満たない。一方、カウンセリングや学習指導を実施していた学校は平成20年度から100校を大きく超えていた。これらに加え社会的スキル指導も、平成25年度には300校以上が実施している。このことは、発達障害のある学生への対応が、相談、治療、訓練といった枠組みで行われていることを意味する。今後、障害学生支援の枠組みでの授業や試験における合理的配慮について理解が深まっていくとともに、授業支援を実施する学校が増えていくと考えられる。

大学における発達障害学生の進路状況

 大学における発達障害学生の卒業率と進路状況については、卒業する者の割合が3分の2程度になっており、日本の大学における一般的な卒業率と比べても低くなっている。卒業後の進路は、就職者、一時的な就職者を合わせた数(236人)と、進路が確定しない者(229人)とほぼ同数になっている。卒業に時間がかかり、卒業しても就職が容易ではないという状況がうかがえる。
経年推移を見ると、卒業段階にある発達障害学生数は増加しているが、卒業率は70%台でおおむね一貫している。就職した学生の数は近年増加したが、仕事に就いたことが確認できない者も増加している。進学者数も増えている。大学院在籍数のデータによると、理工系が多い。高い専門性を身につけて卒業した大学院生が、専門性を生かした職業に就けているかどうかの調査も今後必要であろう。
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まとめ

 この報告書では、日本学生支援機構が平成17年度より始めた「大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(以下実態調査と略称)について、平成25年度までの結果を整理、分析している。対象とする大学、短期大学及び高等専門学校(以下大学等と略称)について悉皆調査を継続しているという点でも、また継続的に調査を実施しているという点でもその結果は重要であり、多くの関係機関等に利用されている。
 「はじめに」でも記載したとおり、障害者権利条約の批准に呼応した国内各法の整備は各領域に影響を及ぼし、これは高等教育機関を含む教育分野についても同様である。障害者基本法ならびに障害者差別解消法に基づき、各大学等は平成28年度以降、障害に基づく差別的取扱いの禁止(国公私立ともに法的義務)に加え、合理的配慮不提供の禁止についても課されることとなる(国公立大学・高専など行政機関等にあっては法的義務、学校法人、学校設置会社など事業者にあっては努力義務)。この体制整備に先駆け、文部科学省は「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」(座長:竹田一則筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)を策定し、大学等における障害学生の範囲、合理的配慮の定義や今後関係機関の取り組むべき課題などを示したところである。
 このような体制上の変化だけでなく、本報告書が示すとおり、我が国の大学等における障害学生の数は、調査開始時以降増加の一途をたどっている。また障害学生の内訳や支援のあり方についても様々な特徴が示されるようになっており、実情としても変化しつつある時期にあるのかもしれない。そのような状況を、このたび整理し公開できることは、たいへん興味深く有意義であったと考える。また各大学等の体制整備を検討するに際し、基盤的な資料を提供することとなった。
 当実態調査を整理・分析するために、当機構では「障害学生修学支援実態調査・分析協力者会議」を設置して検討を行った。委員には、これまで障害学生支援の領域で活躍し、実績を積んだ方々に加わっていただいた。また当機構の研究員が取りまとめにあたった。調査データが多面かつ多年度にわたっていたため、今回の報告書ではまずデータの概要を把握するところから始めることとした。そして「障害学生数、障害学生在籍学校数(第1章)」「障害学生支援の実施状況(第2章)」「障害学生支援に関する体制、研修・啓発活動等(第3章)」「障害のある生徒の受入、障害学生の卒業後の進路状況(第4章)」に分け整理を行った。なお近年の発達障害学生の増加と支援ニーズの大きさを鑑み、「発達障害学生への支援状況(第5章)」については別途章を分けて分析している。分析は各領域で関心の高かったテーマを中心に、記述統計的表現や経年変化の確認などをもっぱらの手法として用いた。実際には多くのテーマが分析されたが、報告書にはそれらの一部を抽出し、わかりやすいかたちで各分担者に報告していただいている。
 個別の分析結果については各章を参照いただきたい。ここでは留意される点などを記述する。
 障害学生数などの実態については、第1章、第5章に示した。
 障害学生数については、調査開始年度以来増加しており、平成25年度には障害学生在籍率が0.42%、支援障害学生在籍率が0.22%となった。一定の増加割合を示していることから、今後もまだ増加すると想定される。しかし日本の障害者割合は約6%(平成26年度版障害者白書)とされていることからわかるように、まだ在籍率として高いわけではない。なお第1章に言及されるとおり、北米・欧州などの各国では障害学生の在籍率はさらに高い数値を示す。これは障害学生の内訳が異なることもあり、今のところ必ずしも比較対象とはなりにくい。すなわち北米等では学習障害(LD)/dyslexia等や精神障害などの割合が比較的多いのに対し、日本ではいわゆる身体障害がもっぱらを占める。しかし調査結果が示すとおり、我が国でも発達障害、精神障害の学生割合が相対的に増加しつつあることから、今後のありようを考察することはできるのではないかと思われる(註:第5章にあるとおり、発達障害の内訳が北米等と日本では異なる点は注意を要する)。これと関連して、実態調査において精神障害は「その他」カテゴリーに分類されてきたが、「その他」の割合が大きくなってきたことから、今後は精神障害の分類を分けて記述することを検討しているところである。そうすることにより、今後の支援体制整備により有益なデータを提供することが期待される。
 支援のあり方については、第2~4章にまとめた。
 支援を実施する大学等も分析対象期間に増加している。これは冒頭に示した体制整備の必要性に伴い、一定の数値まで至ると思われる。支援内容についても多様な支援が提供されるようになりつつあるが、学校によってまだばらつきがある。ただし支援内容は各校の実情とニーズに応じて整えることが必要であるため、さらに注意深く検討することが望ましい。また短期大学・高等専門学校については、データ数が多くないことや教育体制の違いなどから、必ずしも大学と同一に比較し論ずることは難しいかもしれない。例えば高等専門学校の授業配置では空き時間のある学生は多くないため、学生を支援リソースとして充てるなどの方策は立てにくく、別の取り組みが求められるかもしれない。そのような観点も踏まえながら、本調査結果を見る必要があるだろう。
 支援の内容については、授業内支援の充実だけでなく、授業外支援の増加についても注目される。平成24年度から25年度にかけては、授業以外の支援実施校が授業内支援の実施校数を上回るという上昇を見せているが、これは授業以外の支援ニーズの高まりを示しているのかもしれない。しかし授業内支援の実施校数については、障害学生の在籍校数との関係で上限に近づいているのかもしれず、その意味ではより質的な充実が求められるとも考えられる。とりわけ発達障害や精神障害の学生に対する授業内支援はまだ十分提供されているとは言いがたく、今後の取組が求められるのではないかと思われる。一方授業外支援については、各種研修や親を含めた相談対応などとともに、進路・就職に対する支援が注目される。分析では卒業学生数や就職者数こそ増えているものの、卒業率は順調とはいえず課題を指摘する結果となった。これまでは入学・在籍する学生の伸びに注意が払われてきたが、今後は進路の在り方についても検討を進めるべきと考えられるのではないか。
 支援体制については、対応委員会、担当部署、関連規定ならびに担当職員配置などの観点から調べている。関連規定は整備率が16.6%と必ずしも高くないが、今後は関連法の推進により増加するものと思われる(障害者差別解消法に基づく対応要領策定)。担当者についても兼任を中心に増加しているところだが、担当部署・機関については、他の部署・機関による対応との回答が多い。これは学校規模の大きさと関係しているとの分析結果があるが、それぞれ各校の実態に応じた体制づくりをしていると理解することもできる。そのため、学校規模等の特性と望ましい支援体制の関係などが検討されることも必要かもしれない。さらに今後は合理的配慮との関連により支援体制を検討することも求められるだろう。すなわち基礎的環境の整備だけでなく、学生からの申し出に対する対応の仕組みづくりといった観点である。これは実態調査としては取り組みにくいところもあるため検討課題としたい。なお試みとして当機構では今年度、各校に対して配慮・支援の事例を収集させていただいたが、そのような手法も併せ考慮すべきかもしれない。
以上、簡単に実態調査の内容を振り返り、考慮すべき点を中心に提示するとともに、若干の課題を示した。仔細については各章の記述を参照されたい。今回の実態調査分析については、基本的な概要を把握することに努めたが、冒頭に示したような背景・経緯もあり、時機として重要な期間を記述したと言える。今後は関連法の示唆に基づきより意識的な改善が図られていくと推測される。各校におけるそのような取り組みのための資料として本報告書が活用されることを期待する。
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障害学生修学支援実態調査・分析協力者会議

障害学生修学支援実態調査・分析協力者会議設置要項

平成26年5月12日
(目的)
第1条 この要項は,独立行政法人日本学生支援機構が「大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(以下「実態調査」という。)の結果を実際の修学支援の充実に資するために分析・検討を行なう外部有識者からなる協力者会議(以下「会議」という。)の設置に関して,必要な事項を定める。

(会議の役割)
第2条 会議は,次に掲げる事項について検討する。
(1) 実態調査の結果を基にした障害学生の現状把握及び推移,支援状況等の分析について
(2) 実態調査の調査方法・調査項目等の改善について
(3) その他必要な事項

(会議の組織及び協力者の委嘱)
第3条 会議は,5名程度の協力者をもって組織する。
2 協力者は,理事長が委嘱する。
3 協力者の任期は,委嘱を受けた日から同年度の3月31日までとし,再任を妨げない。
4 会議は,必要に応じて,協力者以外の者の協力を得ることができる。

(会議の運営)
第4条 会議に必要に応じ議長を置き,協力者の互選によってこれを定める。
2 議長は,会議を総理する。
3 議長に事故があるときは,あらかじめ議長の指名する協力者がその職務を代行する。
4 議長の任期は、選任された日から同年度の3月31日までとし,再任を妨げない。

(庶務)
第5条 会議の庶務は,学生生活部において処理する。

(雑則)
第6条 この要項に定めるもののほか,会議の運営に関し必要な事項は,別に定める。

附則
この要項は,平成26年5月12日から施行し,平成26年4月1日から適用する。

平成26年度 協力者会議の実施

第1回 平成26年6月17日
第2回 平成26年7月22日
第3回 平成26年9月 9日
第4回 平成27年1月20日

平成26年度 協力者及び執筆者一覧

第1章 障害学生数、障害学生在籍学校数
 日本学生支援機構 コーディネーター(筑波大学 博士特別研究員) 野内 友規
 日本学生支援機構 客員研究員(筑波大学 講師) 名川  勝

第2章 障害学生支援の実施状況
 京都大学 助教 村田  淳

第3章 障害学生支援に関する体制、研修・啓発活動等
第4章 障害のある生徒の受入、障害学生の卒業後の進路状況
日本福祉大学 教授 柏倉 秀克

第5章 発達障害学生への支援状況
信州大学 教授 高橋 知音

まとめ
 日本学生支援機構 客員研究員(筑波大学 講師) 名川  勝


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