2-2.高大連携

(2)大学等における主な課題 2.高大連携

【引継ぎの円滑化】

障害のある生徒の大学等への進学を促進するため、出身校(特別支援学校高等部、高等学校等)と密接に情報交換を行なう必要があります。

支援情報(支援内容・方法等)の引継ぎ

  • 出身校が作成した個別の教育支援計画等の支援情報に関する資料等を活用し、効率的な教育支援内容の引継ぎを図る
  • 支援情報の引継ぎは本人の意向を最大限尊重し、個人情報保護の観点からも、本人を経由して行なう

【情報発信】

  • 障害のある入学希望者等からの問合わせを受け付ける相談窓口等の整備を図る
  • 相談窓口や、入試時、入学後に受けられる支援内容について、生徒や保護者、特別支援学校高等部や高等学校の教職員に幅広に発信する
  • 必要な支援を適切に提供することによって才能を開花させたモデルケースについて積極的に発信する
  • 情報発信にあたっては、障害学生本人や関係者の個人情報保護の観点に留意する

なお、学生によっては、入学後に、自己選択・決定、コミュニケーション等の機会の増加により、障害による困難・不適応が顕著になる可能性もあるため、こうした学生への支援の対応を進める必要もあります。

事例講評

障害のある学生の支援において、「高大連携」は極めて重要です。高校から大学への移行期には、学校での学び方の極端な変化、単位認定や日常生活での自己決定の範囲の拡大など、障害の有無にかかわらず、あらゆる学生にとって、新たな適応上の課題に向かい合う必要が多数生まれる時期です。しかしながら、障害のある学生自身の権利保障という観点から高大連携を考えると、そこには注意すべき点が複数あります。

まず、高大の連携において、修学についての合理的配慮に関する情報の引き継ぎを、高校または特別支援学校との間で、大学が円滑に行なうことは確かに重要です。しかし、そこで本人の意思の尊重と確認が伴わないままに、支援に関する方向性を先回りして決めていくことは行なってはなりません。加えて、保護者や支援者の意思を大学が直接受け取って、本人抜きに物事を進めることも避けるべきことです。大学進学後は、高校までと異なり、授業の選択ひとつとっても、学生本人の自己決定によって決められていきます。またその機会を通じて、本人が自己決定の重要性を学んでいくことが、大学教育の存在意義の一つでもあります。「とはいえまだそうした準備が整っていない学生ばかりなのでは」という声が聞こえてきそうですが、だとしたら本人を差し置いた先回りを第一義とするのではなく、本人が決めていくことを尊重して待つ姿勢が大事となりますし、また本人が意思を決めたり考えを巡らせる機会を支える働きかけは、どのような時点からもできるはずです。

そもそも、国連の障害者権利条約に立ち返れば、条約が成り立つまでの障害者運動の中では、「当事者参加」や「意思決定」を尊重することが権利保障の重要な要素とされてきました。そこで唱えられたのは「Nothing about us without us(私たちのことを私たち抜きで決めないで)」というスローガンでした。障害に関する歴史を振り返れば、そこには善意や保護、思いやりの名の下に、本人の決定が奪われてきた過去があり、そのアンチテーゼとして、障害者の権利保障の制度が作られてきたことを、障害学生支援に関わる人々は背景として知っておく必要があります。大いに迷いながらも独り立ちしようとする若者の姿は、そのあり方が尊重されて然るべきことなのです。

また本来、本人の意志を尊重し、自己決定の機会を支えることは、大学に進学する以前の、高校やそれ以前の教育段階でも重要なことです。ところが、高校から大学への移行期には、自立に向けて、大きな転換がいくつも存在する点で、やや様相が異なります。自らの将来の希望に照らして大学や学部学科を選ぶこと、保護者の元から離れて新しい土地で自分らしい生活のあり方を作ること、場合によっては、障害者年金など福祉的な資源を保護者の管理から移行し、自らの裁量で福祉資源を活用することなど、大きな転換に当たることだけを考えても、枚挙に暇がありません。それにもっと小さなことで言えば、一人暮らしの夕食に何を食べるかを日々自分で決めなくてはならないことも、小さな、しかし大切な、自己決定の出発点です。このように、高大の移行の時期は、自分自身が今後どうありたいのか、そこに障害のある学生本人が目を向け考える、特に重要な時期となることに違いありません。そして、それらの転換は、障害があるゆえに、他の学生たちとは大きく異なる体験となることも珍しくありません。そのため、他の学生たちのようには、周囲の先輩などから参考となるロールモデルを見つけていくことに難しさがあることも、障害学生支援では踏まえておくべきことです。移行期において、障害のある障害学生支援室の教職員がいたり、大学の障害のある先輩学生たちがいて、当事者の立場からの視点を伝えてくれることは、新しく進学する学生たちが将来を考える上で力強い助けとなるでしょう。

高大連携での支援の引き継ぎや、学生生活のスタートの支援においても、上記に挙げた視点を大切にすることが大学の障害学生支援には必要です。また、こうした変化が高大の移行期に学生一人ひとりにおとずれることや、進学後にはそれまでの学校生活とは異なる「障害学生支援」というサービスがあることを、大学側から広く情報発信することも、障害学生支援において大きな意義のある取り組みです。また、ここまで学生自身の自己決定のあり方に軸足を置いて述べてきましたが、もっと具体的に、大学に進学すると得られる具体的な配慮の内容について情報提供し、それを高校やそれ以前の教育課程に在籍している時から情報として得られることは、障害のある児童生徒本人が、将来の学びや社会参加に向けて夢を広げるために大きな助けとなります。それに、障害のある児童生徒に期待を寄せ、可能性を発見する周囲のの教員や保護者の視線にも、肯定的な変化を与えるものとなる点で、重要なことです。

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