第7回 入学要件、受験生への配慮について

一緒に考えよう!合理的配慮の提供とは

「障害者差別解消法」施行に伴い、全ての大学等についても、不当な差別的取扱いが禁止され、合理的配慮の提供が求められています。では、どんなことが不当な差別的取扱いにあたるのか、合理的配慮とは何なのか、その基本的な考え方について、わかりやすく解説します。

第7回入学要件、受験生への配慮について

ファシリテーター

第7回は、新入生受入における対応について考えます。大学等は、受験、入学に関する対応においても、障害を理由とする「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」という2つの差別の問題について、検討する必要があります。このテーマについてワークショップ形式で検討します。参加者は、大学等の支援担当者です。


検討課題

  • 教育の本質的な変更
  • 過重な負担

国立大学Aさん

私立大学Bさん

私立大学Cさん


ファシリテーター

ファシリテーター:障害のある新入生を受け入れるにあたって、まず問題となるのは、いわゆる入学要件です。障害のあることを理由に入学を断ったり、入学者選抜において不合格にしたりすることは、「不当な差別的取扱い」に当たることは言うまでもありませんが、例えば、聴覚障害のある学生が外国語学部への入学を希望していて、受験前に、「聴覚障害があるため、リスニングはできない。受け入れてもらえるか、受け入れてもらえるとしたら、受験では、どのような支援をしてもらえるのか」と事前相談があったとします。大学としては、まず、どのように対応しますか?

教育の本質的な変更

Aさん

Aさん:まずは、リスニングの免除や代替措置が可能か、スピーキングはどうするのか、学部に相談する必要がありますよね。外国語の場合、リスニングやスピーキングができないと単位取得ができないカリキュラムになっている場合が多いと思います。

Bさん

Bさん:うちの大学でも同じような事例がありました。学部からは、「代替措置、つまり、リスニングやスピーキング以外の手段で学ぶのでは教育目標の到達を保障できない」という回答がありました。学生にもそのように伝え、学生はその学部への進学を諦めました。

ファシリテーター

ファシリテーター:これは、その学部の教育理念に関わる問題ですね。もしも学生への配慮が、その学部のディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーの「本質」を変更してしまうことになるのであれば、学生にその配慮を提供できない理由について、客観的・具体的に説明する必要があります。その説明に整合性があれば、「正当な理由」があると認められるため、大学は「不当な差別的取扱い」をしたことにはなりません。ただし、それは、大学がカリキュラムの本質を変えない範囲で、合理的配慮を尽くした上での話です。つまり、その学部の教育目標を、リスニングやスピーキング以外の手段で学ぶ手段について、どのように検討されたのかということです。

Cさん

Cさん:なるほど!確かに、英語のリスニングやスピーキングができないと英文科ではやっていけないような気がしてたけど、例えば英文学の研究者になるんだったら、読めて書ければ、話したり聞いたりできなくても良さそうですよね。だとすると、その学部が、どういう人材を育成しようとしているのか、何をもってその学部において学問を修めたと考えるのかっていうことが、明確化されていることが必要ですね。職員の立場だと、先生に「教育目標に到達できない」なんて言われてしまうと「そうですか」って引き下がるしかない気がしてたけど、支援部署としては、「どうしてですか」って、具体的な説明を求める責任があるってことだなぁ……。そういうことについて、アドミッション・ポリシーにちゃんと明文化してもらうとか、今後は考えないといけないなぁ。

ファシリテーター

ファシリテーター:これは、ほかにも、いろいろな学部、いろいろな障害種について、起きてくる問題ですね。例えば、視覚障害や肢体不自由の学生が、薬品を使用して授業中に実験をするような理系学部に入学したい、というケースがあります。この場合、視覚障害や肢体不自由があると学生本人及び周囲の安全が脅かされる、という一般的・抽象的な理由から入学を断れば、「不当な差別的取扱い」になります。つまり、まずは前提として、大学等には、学生本人及び周囲の安全を確保しながら実験に参加することができるように、合理的配慮を提供する義務があるのですね。こうした合理的配慮についての検討を尽くさずに入学を断ることは、「不当な差別的取扱い」に当たるのです。

Bさん

Bさん:それって、どこまでやれば「合理的配慮を尽くした」と言えるのか難しいんじゃないでしょうか。そういうケースって、学部からは「危険だから無理」って言われてしまうことが多いです。


過重な負担

ファシリテーター

ファシリテーター:例えば、JASSOが「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」の合同ヒアリングで聴取した中に、心臓ペースメーカーを入れている学生が、強い電磁波を発生する実験が必要な学科に入学したケースについての報告がありました。このケースでは、支援担当者が学部の協力を得て、すべての実験機器の電磁波を計測して、その学生の主治医に相談したのですが、それだけでは判断できないと言われて、結局、ペースメーカーの製作会社に問い合わせ、その製作会社が、機器だけでなく、その学生が立ち入る必要のあるすべての場所で、ペースメーカーに与える影響を計測して、その結果、電磁波の強さによってどのくらいの距離を保てば安全かが明確になり、学生はその学科で修学できることがわかったということでした。

Aさん

Aさん:えらいなぁ。普通の感覚だと、強力な電磁波を発生する実験をやるから、ペースメーカー入れてたら無理でしょって決めつけてしまいそうですよね。しかも、その結果、学生がその学科でやっていけることがわかったっていうんだから、本当にやってよかったって思えますよね。ちゃんとデータを集めてエビデンスを取る……、そうかぁ、僕らの仕事って、ただ先生方を説得して回るんじゃなくて、きちんとした根拠を示して理解してもらうことが必要だってことですね。しかし、そこまでやるには費用的にもかなり大変なんじゃないですか。

ファシリテーター

ファシリテーター:このケースでは、その学生の高額医療費の検査料の枠内で賄えたので、大学負担はゼロだったそうですが、常にそういう形でできるわけではないでしょうね。例えば同じようなケースでも、そのままではペースメーカーに大きな影響があり、電磁波をシールドする等の大幅な施設改修が必要で、それが大学にとっては過重な負担になり、そこまでの配慮はできないという場合に、やむをえず学生の入学を断るのであれば、「正当な理由」があるため「不当な差別的取扱い」にはなりません。それが「正当な理由」と言えるほどの負担かどうか、という問題ですね。

Bさん

Bさん:障害によっても、学部によっても、いろいろなケースがありそうですね。うちの場合は、学生が入学するまでは入試課と教務課が担当しているので、直接、そういうケースに対応したことはなくて、入試課や教務課から問い合わせが来たときに、うちで持ってる対応事例とかできる配慮について答えてるんですが、問い合わせ以前の段階で断ってしまっているケースとか、あるかもしれないですね。今後は、うちの部署も、事前相談の段階から関わっていったほうがいいのかもしれません。

ファシリテーター

ファシリテーター:ありがとうございました。新入生の受入や受験における配慮は、大学等にとって「同等の機会」提供の最初の一歩ですから、とても重要です。障害学生支援部署だけでなく、入試や教務、学部等の教育部門等、全学的に共通した認識を持って臨む必要があります。一人ひとりの学生ときちんと向き合って、「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の不提供」といった対応にならないよう、適切な対応をすることが望まれます。



以上の点について、詳細は、以下の「紛争の防止・解決等のための基礎知識(1)大学等における基本的な考え方」でも解説していますので、ご参照ください。

また、文中で紹介した合同ヒアリングでの聴取内容については、以下の報告をご参照ください。

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