第11回 進学を希望する生徒への情報発信

こんなときどうする? 障害学生支援部署の役割

「障害者差別解消法」施行から3年が経過し、関連するトラブルも増えつつある中、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、対応の留意点や活用できる社会資源等、現場レベルの視点でより具体的に解説します。

第11回 進学を希望する生徒への情報発信

講師

第11回は講座形式で、進学を希望する生徒や保護者、生徒が在学する高等学校・特別支援学校等への情報発信について、障害者差別解消法の観点から、その必要性と方法について検討します。
文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針(以下、「対応指針」)では、大学等の高等教育機関(以下、「大学」)に対して、障害学生への支援体制に関する情報公開・情報発信を促しています。なぜ大学は、在学生のみならず学外に向けて情報発信することが必要とされるのでしょうか。また、受験生に向けた情報発信や受験前相談の方法として、どのような事例や留意点があるのでしょうか。

◆現状とその課題
障害学生支援に関する相談機関には、受験を控えた障害のある高校生やその保護者、学校関係者等から、例年次のような問合せが寄せられています。

「障害学生を受入れている大学、支援の手厚い大学はどこか教えてほしい」
「入試時の配慮について相談したいが、どこにどのように問い合わせればよいのか」
「○○大学を受験したいが、支援の体制がどうなっているか教えてほしい」

一方で、大学の障害学生支援担当者からは、次のような声が聞かれます。

「受験前相談も入試の配慮申請もなかったのに、入学してから支援の要望があるとわかり、新学期早々、対応に追われ大変だった」
「『入学後も当然入試の時と同じ配慮を受けられると思っていたのに、なぜ改めて面談や支援の申請をしなければならないのか?』と保護者から不満を言われてしまった」

こうした悩みや疑問、そして受験生と大学側とのズレが生じる背景には、大学の情報発信のあり方に関わる課題が潜んでいます。
本来、各大学が障害学生支援に関する情報を十分に発信できていれば、上述のような受験生の疑問は生じないでしょうし、受験から支援利用までの流れが大学側・入学者側で共有できていれば、支援担当者が困惑する事態も避けられるはずです。
大学として求められる情報発信のあり方について、改めて整理してみます。


◆大学が取るべき対応

必要な情報の公開

講師

情報発信の第一歩として、大学ウェブサイト内や大学案内、パンフレット等に、障害学生支援に関するページを整備するなどして、広く公開することが挙げられます。対応指針においても各大学の役割として、「障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を明確に示すことが重要である。」とし、その具体的な方法として、入試時の対応体制、学内バリアフリー、入学後の支援体制等についてウェブサイト等で広く公開すること、またその情報アクセシビリティに配慮すること、等が記載されています。
具体的なポイントとして、次のような点が挙げられます。障害のある進学希望者が、ウェブサイトで大学の支援体制を調べようとしたとき、これらがアクセスしやすい形に整備されているかどうか、検討してみてください。

  • 大学のトップページから、障害学生支援についての情報がどこに掲載されているかがわかるような構成になっているか(「障害学生支援」「障害のある学生」などのキーワードを含むメニュー)
  • 支援に関する情報として、学内の体制、主たる担当部署名(窓口)とその所在地(バリアフリー情報を含むアクセスマップ)・連絡先(電話だけでなくFAXやmailを含む)、担当者の体制(スタッフ数、専門家の存在)、提供可能な支援の内容、対応可能な相談内容などが網羅されているか
  • 入試に関するページ、オープンキャンパスに関するページ内で、障害への配慮や対応についての説明や問合せ先が明記されているか
  • 3つのポリシー(ディプロマポリシー、カリキュラムポリシー、アドミッションポリシー)が公開されていて、障害のある学生が進学、就学する際にどのような合理的配慮や事前的改善措置(環境整備)が必要かを検討する際の拠所となるかどうか
  • 授業のシラバスが公開されていて、各授業の実施形態(講義、実技、演習等)や評価方法、達成すべき事柄等、障害のある学生が履修に際し配慮申請の必要性を判断するための必要事項が明記されているか

各大学が、障害のある受験生がアクセスできる形で上記のような情報を公開していれば、冒頭で紹介したような高校生・保護者の疑問も解消され、スムーズに進学に向けた準備を勧めることができるでしょう。また、窓口が明記されていることによって、早い段階で大学の支援担当者とつながる事ができ、大学側も受験を想定した対応準備を落ち着いて進めることが可能となります。

なお、3つのポリシーやシラバスについては、障害者差別解消法の施行に伴い、その文言や記載する内容が法律の趣旨に沿うものであるかどうかを検証する必要があるとの議論も挙がっています。このことは今回のテーマとは別の課題になりますが、情報発信の推進と合わせ、各大学内で検討すべき課題であると言えます。

受験生の立場に寄り添う情報発信や対応の取組

では、どのような情報発信の取組がなされているのでしょうか。

障害のある受験生に向けたウェブページの充実

講師

大学のホームページの中で、障害のある受験生を対象としたページを設け、まとまった情報を発信している例があります。
A大学では、学生支援を担うセンターのホームページ内に、障害のある受験生向けの動画コンテンツを掲載しています。受験準備から入試での配慮依頼、入学後の支援利用の流れなどの説明を、障害種別ごとに動画で説明しています。受験生は、手続きの流れがわかるだけでなく、受験や大学進学にあたって自分自身がすべきことも見通すことができ、法的に求められる情報公開であるだけでなく、円滑な移行支援としても障害のある受験生の助けになっていると言えます。
まずオープンキャンパスから大学の情報を収集する受験生を想定し、障害のある受験生への情報をわかりやすく提示している事例もあります。B大学では、オープンキャンパスの案内ページから、障害学生支援の説明ページへのリンクがあり、入学後の支援体制に関する情報と、オープンキャンパスの際に得られる配慮や個別相談に関する情報とが、まとめて得られるよう工夫されています。相談・問合せ先の窓口が明確に提示されていることは、受験生の安心につながります。
特に、オープンキャンパスに参加する受験生から求めがあった場合には、合理的配慮の方法について検討し、必要な配慮を提供するというプロセスを踏むこととなります。
いつまでに、どこに申請すればよいかを明示するとともに、合理的配慮の提供により障害のある受験生も他の受験生と同じように、大学生活や入学試験に関する情報を得られる機会を保障することが求められています。

障害のある生徒を対象とした高大連携の取組

講師

ウェブサイトやパンフレットでの情報発信に加え、障害のある高校生を対象にもう一歩踏み込んだ取り組みを進める大学も見られるようになっています。
C大学では、発達障害のある高校生を対象に、大学進学後の学生生活や修学がイメージできるようなプログラムを提供しています。レクチャーや体験を通して、高校と大学の授業や試験方法の違い、支援の利用方法、進学に向けて準備すべきことなどを学ぶことで、実際に進学が決まった際のスムーズな移行を目指すと共に、大学側にとっても支援内容の決定から提供の手続きが円滑に行われるという効果が期待されます。こうした、障害のある高校生を対象とした体験プログラムや大学説明会の取組は、少しずつ広がりを見せています。

事前相談への対応

講師

ここからは、受験生からの個別に受験前相談への対応について扱います。以下は、聴覚障害のある高校生の保護者から、相談機関に寄せられた問合せの事例です。


保護者:娘が医療系の資格がとれる大学への進学を希望しています。実験の授業や病院実習でやっていけるのか心配で、ある大学に相談してみたところ、「聴覚障害学生の受入れ経験はないが、可能な範囲で対応する。どんな支援が必要か申請してほしい。」と言われました。前向きに支援を考えてくれているので是非受験したいと思いますが、どんな支援を希望すればよいでしょうか。


この例で、対応した担当職員は、経験がないながらも要望に応じ合理的配慮を提供する姿勢があることを、一見丁寧に説明しているようにも見えます。しかし、実際には、現段階から受験、合格発表、入学というプロセスに沿った手続きの流れが明示されていないため、受験生側としては、「まだ志望校の段階で、具体的な相談をしても申し訳ない」と躊躇したり、「支援してくれることが確認できたのでよかった」」と安心して、相談がストップしたまま入学を迎えることにもなりかねません。また、「どんな支援が必要か申請してほしい」とは、受験生側に選択肢を与えているように見えますが、実際にこの投げかけに回答するのは難しいことです。なぜなら、高校段階の障害学生の多くは、支援を利用した経験が乏しかったり、大学生活の中でどのような支援が必要となるか、実際に障害学生はどのようにして大学生活を送っているのかという情報を持っていないことが少なくありません。この例のように聴覚障害のある高校生の場合、高校の授業でノートテイクなどの情報保障を利用している人はまだ少なく、聴覚特別支援学校の生徒であれば、聞える学生と一緒に音声で行われる授業に参加するというイメージもわきにくいかもしれません。「医療系の専攻であれば危険物を扱う実験もあるだろう」ということまでは予測できても、どのような環境整備や合理的配慮があれば参加できるのか、本人の経験値や知識の範囲で提案しづらいことは、想像に難くないでしょう。

この例では、大学側には聴覚障害学生支援の実績がないので、具体的に提供可能な合理的配慮の例を提示することはできないかもしれません。しかし、次のような事柄を整理し、情報を提示しつつ具体的な検討につなげることはどの大学にも可能だと思われます。

  • 志望する専攻ではどのような授業が行われるのか、また障害ゆえに授業参加や授業目標の達成に困難があると思われる科目としてどのようなものがあるのか
  • 仮に、障害ゆえに履修や単位取得が難しいと思われる科目がある場合、その対応について学内でどのように検討され決定されるのか
  • 学内に支援の実績や専門家がいない場合に、相談したり助言を受けたりできる学外機関はどこか

このように個別の受験前相談を受ける上では、先に述べたような支援体制やシラバス等の情報公開がなされていることで、円滑な対応につながりますし、受験生の側も、必要な情報が公開されていて自身である程度の情報収集をしておけることで、相談時には具体的な相談や確認をすることが可能となります。
逆に、このような情報発信や相談対応が欠けることによって、入学後に思うような履修がかなわず転科を検討せざるを得なくなったり、合理的配慮の検討や提供が間に合わず修学の機会均等を保障できないという事態を生むことにもなりかねません。


講師

いかがでしたでしょうか。障害者差別解消法の趣旨に沿い、在学する一人ひとりの障害学生へ同等の機会を保障することは、受験をする前段階の対応から始まっていると言えるでしょう。


参考情報

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次回予告

第12回「入学者選抜における同等の機会の提供」は10月2日公表予定です。

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