2-5.人材の育成・配置

(2)大学等における主な課題 5.人材の育成・配置

【専門性のある人材】

組織的な障害学生支援を適切に行なうためには、支援を実質的にすすめていく能力を有する人材(コーディネーターやカウンセラー、手話通訳等)の確保が重要です。

求められる能力

  • 障害学生との対話を通じて、個々の状況にあわせたニーズを確認する
  • 大学等の状況を的確にアセスメントする
  • 支援の判断を行なうだけでなく、様々な関係者や関連部局と連携する

育成・配置

  • 支援人材が障害学生支援の中核を担う存在として機能できるシステムの構築
  • 支援人材の専門性の向上、キャリアパスの構築(長期的に支援を担うための組織的な位置づけ)

【支援学生】

人的な支援を担う支援学生の育成・研修等の推進、そのためのノウハウの共有、また、支援学生の活動をバックアップするための相談体制・スキルアップ・フィードバック等の仕組みの充実も重要です。

事例講評

今回の事例の中では、障害学生の入学を機にボランティア学生を募集し、支援体制を整えたり、支援の質的向上に向けて定期的に研修会を開催したりする等、支援に携わる人材の確保と養成・配置に向けてさまざまな取り組みが行なわれている様子が見られました。これらは合理的配慮の申し出をきっかけに、大学側が体制整備に乗り出したもので、一人の学生の入学が学内の環境整備につながった好事例の一つと言えるでしょう。

ただ、支援者の質的・量的充足の面では課題を抱える大学も多く、すべての場面で障害学生の対等な参加が保障されているとは言いづらい現状にあることもわかります。この背景には、さまざまな事情があって、どの大学も最大限努力した結果だとは思うのですが、障害者差別解消法の理念から考えると、今後まだまだ改善の余地があると言えるでしょう。特に、支援体制立ち上げ時期の人材不足は、すでに先進的に取り組んできた大学の多くが通ってきた道で、現状改善に向けたノウハウが蓄積されている分野でもあります。したがって、このような先進校のノウハウを学び合える場を地域の中に作り上げていくことで、自ずと解決策が広がっていくのではないかと思います。また、条件が許すのであれば、大学間で相互に支援学生を派遣し合ったり、地域の大学が共同で人材を養成したりする等の取り組みに発展させていくことも考えられます。また今後、支援の質を一層高めていくためにも、学生ボランティアによる支援のみでなく、手話通訳者や点訳者といった専門的な人材を学内に雇い入れるなどの方向性も検討できるでしょう。より質の高い支援を確実に提供していくためにも、さまざまな好事例の出現に期待したいところです。

一方、事例の中には、謝金の取り扱いについて議論のあった例も見受けられました。支援学生への謝金支給については、大学によってさまざまなポリシーがあると思いますが、一般的には障害学生の精神的負担軽減や支援学生の責任感向上、あるいは支援に対する責任の所在の明確化を理由に、一定の謝金を支払っている大学が多いことでしょう。特に、障害者差別解消法施行以降は、このような学生による支援も単なる学生による自主的な取り組みではなく、大学として責任を持って提供しなければいけない合理的配慮の一部に位置づけられています。したがって、他の学生団体の活動やボランティア活動とは自ずと性質が変わってくることになるので、この点を鑑みた対応が求められます。今回の事例の中には、「謝金を出すのは適当でない」と判断された例もあったようですが、この背景にどのような事情があったのか、また法律の施行を受けて何らかの再考がなされたのかどうかが気がかりです。

また、事例の中には授業における支援者の配置そのものが費用や設備の面で困難と判断されたものも見受けられました。いずれも過去5年以内の事例なので、現在であれば異なる判断が下されるのかもしれませんが、どのような事情があってこうした判断に至ったのかは非常に気になります。もちろん、大学によってはとても規模が小さかったり、特殊な学部だったりして、一般的な支援体制では対応できない例も存在します。このため、合理的配慮提供の手段は、さまざまであって構わないものですが、そうした事情なしに、多くの大学でできている支援が提供できないとするならば、それ相応の説明責任が求められます。支援学生を組織して授業に配置したり、それ以外の方法で情報保障者を確保したりする体制は、今や多くの大学が取り入れているごく一般的な合理的配慮であって、今後は特別な困難事例を除いて、最低限提供すべき支援となってくることでしょう。「支援体制がないから合理的配慮が提供できない」といった説明を繰り返さないためにも、こうした基本的な支援については、いつでも提供ができるように環境の整備を進めていく必要があるでしょう。

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