第16回 教材、授業、試験等における情報保障

こんなときどうする?障害学生支援部署の役割

「障害者差別解消法」施行に伴い、増加が懸念される紛争を防止・解決するために、大学等はどのような対応をしていけば良いのか、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、架空の講座やワークショップの中で、様々な課題や解決方法について紹介していきます。なお、ここで紹介する事例は、大学等の対応を検討する上で必要な要素を盛り込むために、よくある状況や対応を想定して創作したものです。あくまでも架空の事例であり、ある特定の事例に基づくものではありません。

第16回 教材、授業、試験等における情報保障

ファシリテーター

第16回は、授業への参加に伴う情報保障支援について、支援を提供する過程で直面する課題やその解消のためのプロセスや考え方について扱います。どのような体制で支援を提供すれば良いか、支援方法の決定から評価、見直しのプロセスまで含め、ワークショップ形式で検討します。参加者は、大学等の支援担当者です。


検討課題

  • 情報保障支援の内容の決定方法
  • AT(支援機器)の活用と留意点
  • フォローアップ(支援方法の評価と見直し、改善)の必要性

参加者紹介

国立大学支援担当教員Aさん

私立大学支援室職員Bさん

私立大学担任教員Cさん

情報保障支援の内容の決定方法

ファシリテーター

障害学生への情報保障支援については、基本的なノウハウやさまざまな実践事例の情報が提供され、初めての大学でも取り組みやすい環境になりつつあります。そのような中、支援の現場にはどのような課題があるのでしょうか。私立大学教員のCさんから今の悩みを話していただきます。

私立大学
担任教員
Cさん

数年ぶりに聴覚障害学生が入学しました。学部内では、過去に受け入れたことのある別の学生と同じように補聴システムを利用できると考えていたのですが、入学直前の面談で、「授業にはパソコンノートテイクをつけてほしい」「ふだんのコミュニケーション手段は手話」「補聴システムは使うこともあるがあまり効果はない」と言われ慌てて対応することになりました。急いで調べたところ、ノートテイク支援には予算も養成も必要とわかり、4月からの授業には間に合わないため、学生には後期以降に実施できるよう努力すると伝えて理解してもらいました。授業中は前方の座席を確保し、個別の質問には対応するよう各教員に周知するという体制で前期が始まったのですが、6月の面談で学生に様子を聞くと、「前の席に座っても、先生の話はほとんどわからない。」と言われてしまいました。授業後の質問も、一度もしていないようです。後期に向けて、ノートテイクの講座が開けるよう予算は確保できましたが、前期の残りの授業はこのままで大丈夫なのか、単位が取れるのか心配です。

ファシリテーター

過去の受入経験に関わらず、同じ障害種であっても一人ひとり障害の状況や必要な支援は異なるということを踏まえて、最初の段階で丁寧にニーズを聞き取る体制が必要でしたね。
それにしても、学生さんは当初パソコンノートテイクを要望していたのに、なぜ座席の配慮や教員への理解周知のみで納得したのでしょう。

私立大学
担任教員
Cさん

高校の時も前列の席に座っていたということなので、最低限同じ配慮を、ということになったのです。本人も、教科書やスライドを使う授業もあるので何とかなると思ったようなのですが……。

私立大学
支援室
職員Bさん

高校段階と大学の授業とでは事情が変わることが多いですね。でも学生本人も、最初はそのことに気づきにくいのかもしれません。私の大学では補聴システムを利用してきた学生が入学しましたが、大学では途中で質疑が入ったりグループで話し合ったり、授業スタイルが多様で情報量も多くなります。聞き取るだけで疲れてしまうと訴えてきたので、パソコンノートテイクをつけることにしました。

私立大学
担任教員
Cさん

なるほど。学期の途中であっても実態に合わせて支援の内容を見直すことがあるのですね。本学も後期の講座を待たずに、とにかく支援者をつけたほうがいいのでしょうか。でも私の授業に関しては小テストの成績もよく、単位は問題なく取れそうなのですが……。

ファシリテーター

支援がニーズに合っているかどうかは、成績の良し悪しとは分けて考える必要があります。無事に単位を取れたとしても、授業中に限られた情報しか入らず、内容を推測することばかりに注意を注いでいたとしたら、授業に参加する機会を保障したとは言えないのではないでしょうか。


私立大学
支援担当
教員Aさん

Cさんの大学の学生さんも、授業によってニーズが異なる可能性がありますね。前期中はパソコンノートテイクが難しいとしても、今からでも導入できる方法はないか、一つひとつの授業について考えてみてはどうでしょう。

私立大学
担任教員
Cさん

ただ、全面的な情報保障支援が必要な学生の受入れは初めてで、今は十分な予算の用意がありません。もし、手話通訳が必要だとか、とても対応できないような方法を希望されてしまったらどうしたらいいのでしょう。


ファシリテーター

大学が今、提供できる範囲だけで支援方法の選択肢を用意しようとすれば、本当に必要な支援は何かを検討することが難しくなります。まずは、学生の悩みや要望を引き出して、最善の方法がすぐ提供できないのであれば、代替案を一緒に考える。それが建設的な対話の進め方です。学内の人員だけで判断できない場合は、学内の他機関から助言を受けるのもよい方法です。

私立大学
支援室
職員Bさん

手話通訳の手配がすぐに難しいのはわかりますが、学生さんが手話を使う方だということに、やはり向き合うべきなのではと思いました。本学も、補聴援助だけで解決できないだろうかと大学側の事情で進めてしまい、対応が遅れたことは今もとても反省しています。いずれ必要になった時のために、地域の機関に相談だけはしておくなど、今からできることがあるかもしれません。

私立大学
担任教員
Cさん

ありがとうございます。今すぐできる対応と、長期的な対応とに整理していくということですね。そういえば、ペアワークの時にTAの大学院生が気を利かせて筆談で補助をしてくれたことがあり、よくわかったと言っていました。そうしたサポートなら、学科の裁量で今からでもできるかもしれません。学生や学科長と相談してみます。



AT(支援機器)の活用と留意点

ファシリテーター

これまで多くの障害学生を受け入れ、情報保障支援も安定して提供してきた国立大学の支援担当教員Aさんも、今抱えている課題があるということです。

国立大学
支援担当
教員Aさん

次は本学の悩みです。これまでは要望のあった授業にはすべて、パソコンノートテイクや手書きノートテイクを派遣できるよう調整してきましたが、最近は支援者が不足してしまい、派遣できない授業は音声認識を利用した字幕提示を導入することにしました。ですが同じ機器を使っても授業によって思うように正確な字幕が出ず、情報が得られないから修正者をつけてほしいと学生から不満の声が上がってしまいました。結局人手不足の解消につなげられていません。支援技術が進歩したとはいえ、まだ実用は難しいのでしょうか。

私立大学
支援室
職員Bさん

私の大学でも、支援担当できる人材がいない専門科目の授業で、試しに音声認識を使ってみたのですが、順調に使えていますよ。ディスカッションもリアルタイムで文字化されますし、誤字が出ても学生同士、自分たちで言い直したり訂正したりしているようです。




フォローアップ(支援方法の評価と見直し、改善)の必要性

ファシリテーター

人手や予算の不足を補うために支援技術を活用しようという事例をよく聞くようになりましたが、Aさんの大学、Bさんの大学で状況がだいぶ違うのはなぜなのでしょう。

私立大学
担任教員
Cさん

Bさんの大学では、ディスカッションで学生同士が修正できるほど、理解が広がっているのですね。

私立大学
支援室
職員Bさん

少人数のゼミのような授業でもあるので、聴覚障害学生からマイクの使い方を説明したり、全員が字幕を見られるようにして確認しながら進めるルールを作ったりして、やっているようです。授業の内容が難しくても、運用方法がうまくいっているということでしょうか。

ファシリテーター

発言者自身が修正役も担うということですよね。やはり情報保障の質を担保するためには、人手による体制が欠かせないということです。たとえ字幕の誤りが1%であったとしても、どこがどう誤って学生に伝わったのか、誰も責任を持てないのは、大学の責任による支援の提供とは言えません。Bさんの大学の例では、さらにディスカッションの臨場感を共有できるという音声認識の良さも享受できている、好事例と言えると思います。
Aさんの大学でも、音声入力がうまくいっているかなど、改めて見直してみるとよいかもしれません。これまでノートテイクをしていなかった新たな学生層を修正者として募集、養成し修正者をつけて提供できるめどが立てば、人材不足の行き詰まりも解決しますし、支援方法の選択肢も増えて、障害学生にとっても、支援の運営にとっても、プラスの方向に向いていける可能性がありますね。

私立大学
担任教員
Cさん

予算のある大学は、支援の手段をどんどん増やせる可能性があってうらやましいです。以前、本学と同じような小規模な私大に相談した時にきいた事例ですが、すべての授業に手話通訳を希望する学生がいて、費用がかさんでとても大学から提供できないので、学生が自分で依頼し同行するならよしとした、という話を聞きました。さすがにそのような対応はどうなのかと思いましたが、事情の似た大学の者としては他人事とは思えませんでした。


私立大学
支援室
職員Bさん

でもそれでは、学生の経済的な事情や人脈などによって支援の質や量が左右されてしまいます。大学の授業における合理的配慮は、大学の責任で提供するものです。にもかかわらずその費用拠出やコーディネートに関与しないと公言するのは、結局合理的配慮の不提供にあたるのではないでしょうか。

国立大学
支援担当
教員Aさん

国立大学の場合、障害学生支援に関わる予算補助は一般運営費交付金の中に位置づけられています。実績に応じて配分されますが、一般の経費ということはつまり、大学の責任において恒常的に予算を確保し実施していくものという考え方の表れです。私立大学の場合も私立大学等経常費補助金の一般補助の中に組み込まれているので、考え方は同じでしょう。


ファシリテーター

いかがでしたでしょうか。学術分野での手話通訳支援以外にも、専門的な内容の教科書の点訳にコストがかかりすぎてしまうとか、また通信教育課程のある大学では、スクーリングや遠隔教材において障害学生への合理的配慮を実現する体制整備に難航しているケースもある、など多様な課題が挙がっているようです。これらは、一大学が抱えこみ、独自に解決を図れるような問題ではなく、わが国の障害学生支援全体の課題と言えるでしょう。当然、学生個人に解決をゆだねるようなことではありません。点訳については、教材を蓄積して複数の機関で共有する取り組みも始まりつつあるようです。今回のワークショップのように、それぞれの大学が直面する困難を共有して、連携しながら少しずつ長期的な問題解決に取り組むことが必要です。

参考情報

ご意見募集

本コラムへの感想、ご意見等を募集しています。以下のメールアドレス宛てに「ウェブコラム第16回について」というタイトルでお送りください。
メールアドレス:tokubetsushien【@】jasso.go.jp
(メール送付の際は、@の前後の【】を削除してお送りください)

次回予告

第17回「メンタルヘルスと合理的配慮」は1月15日公表予定です。

イラスト:copyright c 2008 kids.wanpug all rights reserved