2-3.就労支援

(2)大学等における主な課題 3.就労支援

【キャリア教育】

障害学生はロールモデルを周辺に見つけづらい状況に置かれているため、早い段階から多様な職業観に関する情報や機会の提供を行なう必要があります。

  • 職業観の涵養や自らの障害特性、適性の理解に資する学内プログラムの提供
  • 学外において障害に配慮したインターンシップやアルバイトを行なうための支援

また、障害学生は、一般枠、障害者枠、福祉就労等、一般の学生に比べて特殊性の高い就職活動を行なうため、就職支援のための取組や関係機関間でのネットワークづくりの促進が必要です。

学内

修学支援と就職支援を担当する部署、障害学生支援を行なう学生課などとの間で連携を促進する 。

学外との連携

  • ハローワークや地域の労働・福祉機関など就職・定着支援を行なう機関と連携を強化する
  • インターンシップや就職先となる企業・団体との連携を図る
  • 大学等におけるガイダンスや説明会、出張相談等を共同で実施するなど、大学間での連携を図り、ノウハウや情報の共有を図る
  • 支援の引継ぎにあたっては、障害学生本人の意向を最大限尊重するとともに、個人情報保護の観点からも、本人を経由して行なうこと

事例講評

卒業後の就労は、障害学生のみならず、すべての学生にとって、人生における重大事といっていいでしょう。また、大学卒業から就労までには、高大の移行期にも起こったように、生活様式の大きな転換がおとずれます。高大の移行期と同様に、障害のある学生たちの社会的な成功を支える上で、重要な時期であると言えます。
一般的に言って、日本型の雇用慣習と、それに伴う形で作られてきた新卒採用の仕組みには「採用時に職務内容が定義されないため、どのような能力が必要とされるかが不明瞭」、「常用雇用では、ひとりの個人を期間の定めなく長期的に雇用することが前提となっているため、社内での多様な職務への配置転換や転勤、職務内容の変更等に伴い、将来的に何らかの問題があるかもしれないという予期不安が採用時に働きやすい」といった特徴があります。誤解を恐れずに言えば、何らかのできないことが明確にある(機能制限がある)のが障害のある人々です。そのため日本型の雇用慣習においては、その職場に必要とされる能力が不明瞭であることから、本人にとっては合理的配慮が求めにくく、採用側にとっては、将来的に起こる配置転換や転勤などを見越して、予期不安にさらされやすいことになりがちです。また、このような慣習から生まれた社会通念は、採用以前の実習の段階でも、「将来の雇用場面では配慮が得られないであろう」ことなどを理由として、実習生にも柔軟な配慮を容認しない形で、障害者の参加を排除する障壁となって立ち現れることがあります。

これまでの日本の雇用制度においては、障害者を長期的に常用雇用していくことを推進するため施策として、障害者雇用促進法に基づいて、障害者雇用率制度が大きな影響を与えてきました。1976年に企業に対して法的義務化されたこの制度は、日本における「障害者雇用」のあり方を構築するエンジンとなってきました。結果として、通常の常用雇用の枠組みの中に障害者を包摂していく形が中心となるのではなく、障害者のための特別な雇用の形態や雇用の場を作る取り組みが主流派を占めてきました。常用雇用における「総合職」に対して、異動や転勤、昇進がないか、または何らかの制限のある「一般職」にあたるような枠組みとして障害者雇用の仕組みをつくる企業もあれば、「特例子会社制度」と呼ばれる制度を利用して、障害者雇用率の充足のために、障害者を多数集めて雇用する子会社を作る企業も生まれました。

もちろん、これらの取り組みは障害者の雇用拡大において重要かつ肯定的な影響を持ってきました。特に、職務を構造化・細分化して、特別支援学校在籍時からの職業訓練と接続することで、特定業務を遂行可能な生徒を育て、雇用に接続してきたここ十数年、知的障害者の雇用が大きく伸びたことは疑いのない事実です。また、食事や排泄などの身体介助を必要としない程度の肢体不自由のある人・車椅子ユーザー、内部障害のある人の雇用は、企業に課される障害者雇用率が年々上昇していることから、売り手市場になっている状況があるといっても過言ではないでしょう。

しかしながら、一方で、障害者雇用率制度は、障害者の雇用参加の形をステレオタイプ化し、制限してきたという負の側面があることも否めません。高等教育に進学し、他の学生たちと同じ教育課程で専門的な学びを修めた障害学生たちが増える将来を想像すると、障害学生支援に関わる教職員は、いわゆる「総合職」への参入障壁に、障害学生たちが苦慮する状況に出会い続けることは間違いないでしょう。大学で発達障害や精神障害などが疑われるが、診断や障害者手帳の取得に至っていないグレーゾーンの学生数が増えている現状から、障害の認定を得ることを本人が望むかどうかについて、適切な情報提供をしながら、意思決定を支える支援(または地域でのそうした福祉的支援に対する接続、ソーシャルワーク)も必要となっています。

こうした新しい社会状況と、戦後および高度経済成長期に形成された伝統的な雇用慣習との衝突に、これからの大学での障害学生支援およびキャリア支援の担当者は立ち向かっていく必要がありますし、障害者のこれからの働き方について、大学が企業や地域社会との連携を構築するなど、プロアクティブな態度で望む必要があるでしょう。これまでに存在しなかった雇用のあり方を、大学が地域と連携して作って行くことも、大学の地域貢献として望まれていることでもあります。

障害のある学生は、一般的に言って、周囲の低い期待と、父権主義的に他者により決められた道への誘導に常にさらされています。ここ数十年で構築されてきた障害者雇用の枠組みへ、障害学生を安易に誘導していることにならないか、個々の学生の現実的な状況を勘案しながら、また何より、学生本人の希望と意思決定に寄り添いながら、担当者個々人は悩みながら進んでいくことになるでしょう。

障害学生の視点から見ると、雇用における差別禁止と合理的配慮が障害者雇用促進法の改正によりすべての企業に対して義務化されたことで、雇用主との関係にこれまでの障害者雇用とは大きな変化が起こっていると言えます。障害のある労働者の権利保障の観点から、自らの障害に関しての合理的な説明を行ない、自らに必要となる配慮を雇用主に対して求めていくセルフ・アドボカシー(自己権利擁護)は、今後の日本の雇用場面と障害のある大学生のキャリア支援において、欠かせないものになっていきます。

日本社会、特に雇用場面には、個人による権利主張を敬遠する文化社会的な背景があるかもしれません。しかし、必要な配慮を自分以外の誰かが決めて用意してくれるのを待つだけではなく、障害のある個人が自分自身の信念に基づいて周囲に求め、希望する道を自らの意思で進んでいくこともまた必要です。そのため就労の段階に至るまでに、在籍する大学の障害学生支援のスタッフとの対話の中で行なってきたように、互いに建設的に配慮のあり方を決めていく柔軟な姿勢を涵養しておくことも望ましいことです。

さらに、卒業後に自分がどのような生活を営みたいか、その中で雇用をどう位置づけたいかについて、多数派の学生たちがたどる道に進むことだけにこだわらず、広い視点から考える機会も必要でしょう。「こうあるべき」という視点だけではなく、障害のある先輩たちがどのような暮らしや働きをしているかについて知ったり、障害に限らず、多様な働き方をしている人々がどのように暮らしているのかを知ったりと、生き方の多様性に触れる機会に参加することもまた、大切であると思います。多様な視点から、自らの今後のありようを考える機会を持つことは、将来、人生のどこかで大きな壁に出会ったときに、絶望や諦め、哀れみといったものの見方を離れて、その壁にどのように向き合い、その後の人生を過ごしていくかを考えるための基礎にもなってくれるるはずです。

大学におけるキャリア支援の取組の対象として、障害のある学生を明確においている大学は、まだまだ多くはないだろうと思います。今後大学のキャリア支援が、障害のある学生もまた、社会的な成功に向けて歩む学生の一人として考慮に入れ、障害学生支援の取り組みと連携しながら、支援できる体制が早期に育っていくことが望まれます。

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