研究概要

1.研究の背景

2016年4月より、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下,障害者差別解消法)」が施行され、大学において不当な差別的取扱いの禁止が法的義務、ならびに、合理的配慮の提供が法的ないしは努力義務となった。法令遵守の一環として大学における障害学生支援が位置づけられることにより、急速に大学等の体制整備が進められている。他方で、独立行政法人日本学生支援機構(以下,JASSO)が大学等の教職員を対象に行っている「大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(以下,実態調査)によれば、大学等において障害のある学生(以下,障害学生)の在籍率が増加し、学生の障害種も多様化していることが示されている。障害学生に対して提供される合理的配慮の内容は、大学と障害学生間における不断の建設的対話・モニタリングの内容を踏まえて決定することが求められている(文部科学省,2017)。しかしながら、実際に障害学生が合理的配慮等の支援の決定プロセスにどのように参画し、提供された合理的配慮等の支援についてどう捉えているかについては実態調査を含め、明らかにされていない。各大学では、障害学生からの支援の申し出に対して適切かつ迅速に対応している場合もあれば、体制が整えられていないことにより、障害学生の意思が十分尊重されていない場合も予想される。そこで、障害学生本人を評価者とした合理的配慮等の支援に関する調査研究を行うことにより、大学と障害学生間の合意形成過程における好事例ならびに課題を明らかにすることが必要である。また、大学から提供された合理的配慮等の支援の有効性を評価するためのモニタリングツールを作成することにも寄与すると期待される。

2.研究目的

本研究では、JASSO実態調査の項目を参考に、障害学生本人を評価者とした合理的配慮等の支援の提供に関する調査研究を行う。本研究の目的は下記の3点である。
(1)大学と障害学生間の合意形成過程における好事例ならびに課題を明らかにする
(2)大学から提供された合理的配慮等の支援に対して、障害学生本人による満足度評価により、支援の有効性を明らかにする
(3)上記(1)と(2)について、学生の障害分類による差異を明らかにする

3.研究対象・期間

(1)対象:大学(大学院、大学院大学及び専攻科を含む。以下同じ)に在籍し、支援を受けている障害学生
※医学的診断書の有無に関わらず、障害の程度に関する何らかの根拠資料があり、大学より支援を受けている障害学生も対象とする
(2)期間:2019年12月~2020年2月

4.研究手続き

(1)研究手法:全国の大学への郵送調査
(2)手続き:
ア)JASSOが把握する各学校の障害学生支援担当部署の連絡先データを用いて、各大学に調査協力に関する可否を尋ねた。調査協力可と回答した大学については、対象となる学生数(概数)および調査依頼方法(紙媒体または電子媒体)の希望についての回答を併せて依頼した。
イ)紙媒体による調査依頼を希望する場合には、大学の担当者に対して学生数(概数)の部数分、調査協力依頼用紙一式を郵送した。調査協力依頼用紙一式には「研究説明書」ならびにWEB調査システムのQRコードまたはURLを記載した案内を同封した。大学の担当者は、対象となる学生に調査協力用紙一式を渡すことで学生に回答を依頼した。
ウ)本研究では音声読み上げソフトを利用している学生や大学によって電子媒体を用いて障害学生への連絡を行っている事情を考慮して、電子媒体による調査依頼方法も用いた。電子媒体による調査依頼を希望する場合には、大学の担当者に対して電子メールにより、「研究説明書」ならびにWEB調査システムのURLを記載した調査協力依頼メールを送付した。大学の担当者は、対象となる学生に調査協力依頼メールを転送あるいは専用のシステムに掲示する等の方法により、学生に回答を依頼した。
エ)学生はWEB調査システムの案内に基づいて、本調査に回答した。

5.調査内容

本研究の調査内容は下記の通りである。なお、全ての調査項目は任意回答とされた。
なお、質問内容中のカンマ(,)は項目の区切りを示す。

(1)回答者の属性に関する質問

表1-1 回答者の属性に関する質問
質問項目 質問内容
1所属コード 調査協力依頼に記載される所属コードをテキスト入力
2課程 下記の項目から単一選択
学部(通学課程),学部(通信教育課程),大学院(通学制),大学院(通信教育課程),専攻科,その他
3所属名 下記の項目をテキスト入力
学部学科名,研究科専攻名
4学年 学年をテキスト入力
5障害名 障害の名称をテキスト入力
6障害分類 JASSO実態調査の障害分類より下記の項目から複数選択
障害分類が分からない場合を考慮し、JASSO実態調査の「調査の手引」、「主な診断名(障害種別確認用)」のURLを記載
選択時に「診断あり」または「診断なし+傾向あり」から選択可
視覚障害(盲),視覚障害(弱視),聴覚障害(聾),聴覚障害(難聴),肢体不自由(上肢機能障害),肢体不自由(下肢機能障害),肢体不自由(上下肢機能障害),肢体不自由(他の機能障害),慢性疾患・内部障害,発達障害(SLD:限局性学習症、学習障害等),発達障害(ADHD:注意欠如・多動症等),発達障害(ASD:自閉スペクトラム症等),精神障害(統合失調症等),精神障害(うつ病、双極性感情障害等の気分障害),精神障害(不安障害、強迫性障害等の神経症性障害),精神障害(摂食障害、睡眠障害等),その他の障害

(2)支援の提供プロセスと満足度に関する質問

※支援に関する総括的評価ではなく、各支援内容に対する評価となるように、学生にとって最も代表的なものを「1つ」イメージして回答を求めた
※複数の支援について回答したい場合は最大5つまで同じ項目への回答を可とした
※複数の支援について回答したい場合は、「最も代表的なもの」、「2番目に代表的なもの」、「3番目に代表的なもの」、「4番目に代表的なもの」、「5番目に代表的なもの」まで、できるだけ異なるタイプの支援をイメージするように求めた
※学生の回答負担を考慮し、随時、調査から離脱できる設問を設けた

表1-2 支援の提供プロセスと満足度に関する質問
質問項目 質問内容
7支援内容 障害を理由として申し出た支援内容を「1つ」テキスト入力
学生から申し出ていないが、大学から提供された支援がある場合は「申し出ていない」等と記入
8支援場面 支援を必要とした場面について下記の項目から複数選択
受験・入学,授業(講義形式),授業(演習・実験・実習・フィールドワーク形式),研究指導,事務手続き,施設やサービス(学生寮、図書館等)の利用、正課外の活動、行事、説明会、シンポジウム等への参加,キャリア教育、就職活動,必要と感じていなかった,その他(自由記述)
9合意形成過程 申し出と大学から提供された支援の関連について単一選択
A:申し出通りの支援が提供された
B:申し出とは異なる支援が提供された
C:申し出てはいないが支援が提供された
D:申し出たものの支援は提供されなかった
10実際の支援 【9:合意形成過程でB・Cと回答した場合のみ表示】
実際に大学から提供された支援内容をテキスト入力
11支援の提供/不提供に関する説明 【9:合意形成過程でB・C・Dと回答した場合のみ表示】
支援の提供/不提供についての大学からの説明をテキスト入力
説明を受けてない場合も記入
申し出のうち一部のみ提供で一部は不提供の場合は記載内容を分けて回答
12決定プロセス 申し出〜支援の提供/不提供の決定のプロセスをテキスト入力
申し出のうち一部のみ提供で一部は不提供の場合は記載内容を分けて回答
13満足度評価 支援の提供/不提供に関する満足度を尋ねる下記の9項目について、「1:全くそう思わない」から「5:とてもそう思う」までの5件法により回答
申し出のうち一部のみ提供で一部は不提供の場合はイメージした支援申出内容に対する総評として回答
1:この支援の提供/不提供にあたり、大学の体制・設備は整っていましたか?
2:この支援の提供/不提供にあたり、大学は誠実に対応してくれましたか?
3:この支援の提供/不提供にあたり、大学は迅速に対応してくれましたか?
4:この支援の提供/不提供にあたり、大学は十分な知識を持っていましたか?
5:この支援の提供/不提供にあたり、あなたの要望を大学は適切に理解してくれましたか?
6:この支援の提供/不提供に関する大学からの説明はわかりやすかったですか?
7:この支援の提供/不提供の決定について、あなたは満足していますか?
8:この支援の提供/不提供の決定について、あなたはその理由に納得していますか?
9:この支援の提供/不提供の決定後に、あなたが支援を必要と感じた場面での問題は解決しましたか?
14満足度評価の理由 「13:満足度評価」の理由についてテキスト入力
申し出のうち一部のみ提供で一部は不提供の場合は記載内容を分けて回答
15他の支援 他の支援について下記の項目から単一選択
ある(質問項目7から続けて入力)
なし(質問項目16に移動)
17本調査の意見・感想 本調査に関する意見・感想についてテキスト入力

6.研究実施体制

7.個人情報・調査結果の取り扱い

大学の教職員ならびに学生に対して、下記の通り、個人情報・調査結果の取り扱いについて書面により説明を行った。また、本研究の実施に関して筑波大学人間系研究倫理委員会の審査・承認を得た。

  • 本研究への協力は任意であり、本研究に協力しなくても、所属機関および教職員、学生において何ら問題はないこと
  • 学生に対しては、本研究への協力が所属大学の承諾を得て行っていること。また、学生が所属する大学に個別の回答結果が通知されることは一切ないこと
  • 調査への回答は、学生が所属する大学への個別の支援改善等の要望を表明するものとしては用いられないこと
  • 調査項目について答えたくない項目は答えなくて構わないこと
  • 本研究で得られた全てのデータ・個人情報は、電子データ化してパスワード保護した上で、統計的に処理されること
  • データは研究責任者のパーソナル・コンピューター内で管理するので、本研究に関連のない第三者がデータを見ることはないこと
  • 調査は無記名で行われ、WEB調査システムは本研究のデータ収集が完了した後に完全に削除され、収集されたデータについても一定の保管期間経過後に削除すること
  • 本研究の分析のために、データの一部についてデータ入力業務を行う事業者に提供する場合はあるが、提供するデータには個人情報を含めず、また提供する際には厳格な守秘義務を課すこと
  • 本研究で得られたデータは個人が特定されない形で、学術雑誌等の研究成果として公表すること
  • 調査への回答をもって、本研究への協力の同意とすること。また、本研究協力に同意した後も、いつでも同意を撤回できること