考察・今後の展開

1.障害学生本人による支援の評価傾向

本研究では、JASSO実態調査の項目を参考に、障害学生本人を評価者として合理的配慮等の支援の提供に関する調査研究を行った。その結果、全国152校の大学ならびに243名の障害学生の協力を得た。調査の結果について、本研究の目的に沿って総合考察を行う。

(1)大学と障害学生間の合意形成過程における好事例ならびに課題

本研究に協力した障害学生の多くは、申し出どおりに大学から支援が提供されていた。このことは、2016年4月からの障害者差別解消法の施行を受けて、障害学生に対する合理的配慮の提供が法的ないしは努力義務とされたことが影響していると推察される。障害学生からの支援申し出に対して、大学としては対応をする必要性を感じていることを示す結果とも言えるだろう。しかしながら、申し出とは異なる支援が提供される場合や、申し出たものの支援は提供されなかった場合もあり、そのような過程では学生からの満足度評価が低い傾向にあった。このことから、合意形成過程における大きく2つの課題が考えられる。1つは、テキストデータ化や手話通訳、トイレ介助など一定の質保障が求められる支援内容で比較的多く見られたことから、各支援内容の利点と限界に関する知識の不足と学内外のリソース不足が挙げられる。例えば、音声情報に対する情報保障としてノートテイクやパソコンテイク、手話通訳、または音声認識ソフト等が用いられるが、それぞれの支援内容のメリット・デメリットを十分に理解していない場合、提供するためのコストが比較的高い内容(例:学内でテイカーを養成する、手話通訳士派遣を依頼する)を避け、低コストの支援内容を大学側が提案することや代替案なく不提供につながってしまうかもしれない。2つ目の課題として、配慮依頼文書等を作成したとしても、最終的な配慮内容の調整が学生と各授業担当教員間の調整に委ねられやすいことが挙げられる。障害学生支援部署など全学的な合理的配慮の調整を推進する部署がある場合でも同様の課題が生じる。
リソース不足など全国的な課題もあるが、いずれにおいても、障害学生の潜在的なニーズを教職員側が適切に把握することが鍵となるだろう。申し出てはいないが支援が提供された例に見られるように、学生にとって必要な支援を教職員側から積極的に提案することで、学生自身が把握していない支援の選択肢を知る機会となる。また、配慮依頼文書発行後に障害学生に状況を聞き取る等の工夫により、障害学生と授業担当教員間で調整が上手くいっていない事態を早期に把握・対応することができるだろう。つまり、支援ニーズの把握と合理的配慮調整プロセスにおける定期的なモニタリングの実施が肝要である。

(2)大学から提供された支援への満足度

本研究に協力した学生の多くは、大学から提供された支援に対して高い満足度を示していた。障害学生の高い満足度につながる要因として、共通して大きく2つの点が挙げられる。まず、学生からの申し出に対する迅速かつ丁寧な対応ができる体制である。障害学生支援部署等の専門部署の設置により、大学としての合理的配慮調整プロセスが明瞭になっていることは障害学生の満足度に影響する要因として考えられる。あるいは、障害学生支援部署がない場合でも、授業担当教員や窓口対応職員など個々の教職員が学生の申し出を丁寧に聞いて連携を取ることができれば同様の効果は期待されるだろう。2つ目に、対応する教職員が障害に関する知識と支援内容の選択肢を十分理解していることが挙げられる。先述した情報保障の例でも述べたように、いくつかの支援の選択肢から障害学生の潜在的なニーズを考慮して、適切な支援内容を教職員が提案できることは高い満足度に寄与すると期待される。しかしながら、本研究の結果には回答者バイアスが影響している可能性が考えられる。本研究は障害学生支援部署等を経由して障害学生に調査依頼を行なっているため、障害学生支援部署とコンタクトを取っていない障害学生に対しては調査依頼を行えていない可能性がある。大学から提供された支援に満足していない学生は関係部署とのコンタクトが減っている可能性が推察されるため、留意が必要である。
また、試験時間延長や別室受験、出席に関する配慮、授業内容の代替、提出期限延長など成績評価に直結する支援内容については、大学側の対応により満足度の高低に影響を大きく受ける傾向が見られた。例えば、発達・精神障害学生で挙げられることの多い、出席に関する配慮などは授業担当教員によって判断が分かれやすい部分であり、今後、合理的配慮としてこれらの対応を行う際のルール作りや判断フローの検討が各大学ならびに全国的にも必要であるだろう。

(3)学生の障害分類による差異

当然のことながら、学生の障害分類によって提供する支援内容が異なり、支援に対する学生の満足度も変わる。本研究の結果からも、障害分類によって満足度に違いが見られた。改めて各障害分類で見られる特徴を列挙する。視覚障害学生ではテキストデータ化やデータ提供を迅速かつ適切に対応すること、聴覚障害学生では授業の専門性に応じた情報保障が利用できること、言語障害学生では発話が伴う活動におけるコミュニケーション上の配慮が提供されること、肢体不自由学生では施設設備のバリアフリー化や環境整備が行われること、内部障害学生では疾患の状態に応じたルール変更を認めること、発達障害学生ではスケジュール管理や履修指導が受けられること、精神障害学生では体調を考慮した座席配慮や制度変更が利用できることを主に挙げていた。大学に多様な障害のある学生が入学・在籍することを考慮して、各障害分類により求められるニーズを把握することは迅速かつ丁寧な対応に重要である。

2.本研究の限界と今後の課題

本研究は障害学生自身が合理的配慮等の支援の決定プロセスにどのように参画し、提供された合理的配慮等の支援についてどう捉えているか明らかにした点が有益と考えられる。しかしながら、本研究において解決するべき研究上の課題がある。
まず、支援の有効性を評価するために「障害学生による満足度評価」のみを用いている点である。合理的配慮においては提供により実際に社会的障壁が除去されたか否かが、合理的配慮以外の支援(例:自己管理指導や就職活動支援など)では、その支援により期待される変化が見られるか否かが効果評価において中核となる観点であるだろう。しかしながら、障害学生本人に対する評価のみでは効果評価として十分とは言えないかもしれない。例えば、障害学生本人が満足していたとしても、提供された支援が授業や教育の本質的変更をもたらす場合には一定の教育の質を担保することが求められる大学として適切な対応ではない可能性も考えられる。そのため、障害学生本人による自己評価はもちろん重要であるが、支援を提供する側である大学教職員に対する調査も併せて行い、障害学生本人による評価と照合しながら検証することが今後の研究として求められる。
2つ目に、調査の実施時期や方法の工夫である。今回は調査協力依頼が2月頃に行われたため、後期の試験期間や春季休業と重なる等の理由で十分に回答が得られない場合もあった。また、質問内容で記述形式が多いため、学生に対する回答負担が高かったと考えられる。今後は、調査実施時期や内容をより工夫することが必要である。その際には、視覚障害のある学生がスクリーンリーダーを利用することも考慮し、アクセスしやすい調査方法を引き続き検討すべきだろう。
3つ目に、調査で取り扱う支援の範囲である。本研究では学生がイメージする支援内容について特に制限は設けなかったが、説明文の構成は授業支援に焦点化して作成されていた。通学支援や生活介助、自己管理指導、専門家によるカウンセリングなど障害学生が受ける授業以外の支援についても同等に評価できるように検討する必要がある。
4つ目に、本調査の結果に対する更なる分析が挙げられる。本研究では障害学生本人による支援の評価傾向を中心に分析したが、障害学生本人の満足度の高低に及ぼす大学側の諸条件(例:設置形態、規模、専門部署の有無、障害学生支援の活動・取組など)の関連を明らかにすることで、より直接的に大学側の体制整備につながる示唆が得られると期待される。また、本調査で試行的に使用した満足度評価の信頼性・妥当性の検証が必要である。多様な障害学生のニーズや意向を反映するようなモニタリングツールの作成につなげることで、先述した潜在的なニーズの早期把握や対応に寄与すると期待される。

3.本調査に対する意見・感想

最後に、調査に協力していただいた障害学生からの意見・感想を下記に示す。障害学生本人の声を聞き取り、対話することを通じて、研究責任者・研究分担者を含め、大学の垣根を超えた体制整備・改善を進めていくことが何よりも必要である。多様な障害のある学生への迅速かつ丁寧な対応により、全ての学生の修学に寄与することを目指したい。

  • 就職活動を通して、他の障害を持つ学生の方々と接し、大学での修学支援に各大学が慣れているのか、慣れていないのか、おそらく差があると感じました。もし可能であるならば、この調査結果を多くの大学で共有し、修学支援に慣れていない大学でも、様々な支援が行えるよう検討していただければ幸いと存じます。どうかよろしくお願い申し上げます。
  • これからも障害のある生徒が授業を受けられる支援を続けていただきたいです。
  • 今までのこのようなアンケートは、評価対象先を経由しての手渡しや返却が多かったので、なかなか事実を述べられませんでした。実際にアンケートをみられて注意された知人などもおります。今回は内容はもちろんのこと、信頼性もあり、とてもありがたいアンケートでした。
  • 自分は五体満足で、体が動かせなかったり、五感が備わっていなかったりはしない。しかし、外見は普通にみえても、症状はかなりきついと感じる。自分は障害ではなく疾患があるので出来れば僕の様な精神に疾患がある人も障害者にあたるのか、それとも健常者にあたるのかというところが何故か気になってしまった。しかし、自分は勇気を出して配慮を受けすくわれた。この調査がきっかけで自分の様なだれにも言えずに苦しんでいる様な外見ではわかりにくい疾患を持った人にも、絶望する前に支援が行くことを望む。
  • この調査でもっと状態が良くなっていったら嬉しい。
  • 自分の障害や支援について改めて考えさせられる良い機会になった。
  • 少しでも参考になれば幸いです。
  • とてもこの調査を行う意味があると考える。
  • この度の調査で障害のある学生の支援に対する理解が深まることを期待しています。
  • 素晴らしい研究事業だと思う。来年度以降も継続して欲しいと思う。
  • 私は身体的障害及び発達障害、精神的障害は持っていませんが、指定難病です。見た目は健康な方と変わらず、理解されない事が多いので、難病で困っている学生の手助けになればと思います。陰ながら応援させて頂きます。
  • 少しでも障がいのある学生が学ぶ環境が良くなればと思います。そして、細やかな調査をしてくださってありがとうございます。
  • 今回のアンケートを通し、教育機関での障害学生に対する配慮の見直すべき点、改善点などが見つかった場合には、より良い学習環境を作るために、当事者の声を反映してほしいと思った。
  • 今後も合理的配慮が大学教育において充実することを願っています。
  • 意見を今後の支援に活かしていただけたら幸いです。
  • スクリーンリーダを使用してウェブから回答したが、「障害の分類」や「支援に対する満足度」の項目を選択する部分が使いづらかった。電子媒体での回答としては、ウェブだけではなく、テキストデータやメールに記入する形も選択肢に入れてもらえるとありがたい。また、今回のアンケートに回答して気づいたのだが、大学から提供されている支援を評価する際には、大学の事務局の関与の仕方に対する評価と、実際に現場で支援に当たっているスタッフに対する評価とが異なる場合が多い。大学によって支援体制の運営の仕方は異なるので統計的なデータを出すのは難しいかもしれないが、支援に当たっている現場のスタッフの立場と、体制の運営の責任を担っている大学事務局の立場という違いに着目した調査もぜひ行ってほしい。
  • 調査の構えとして、ハンディをもつ者への合理的配慮は、大学に集うすべての成員(教職員含む)にとって、学習環境の改善につながるという意識のもとに分析を行ってください。ひとりへの配慮は全員の福音になります。少数であるから、その部分のみに特化した「何か」を行うということになると、結局、組織の善意という枠から抜けられなくなります。
  • 卒業前に振り返れるいい機会になりました。ありがとうございました。
  • 大学での私自身が受けた配慮等について振り返ることができ、懐かしかったです。
  • 私の大学は今年から支援室を設置し、支援に前向きに取り組んでいるところです。大学のおかげで楽しく学生生活を送れていると改めて実感しました。
  • 障害を診断有と傾向でわけてくださり助かりました。脳性麻痺の影響で身体の麻痺に加え視空間認知にも問題があります。発達障害のような不注意優勢なところがあるのですが、手帳が2つになるのが煩わしく、診断を受けていませんでした。それが記入できて嬉しかったです。この機会を設けてくださりありがとうございました。
  • 合理的配慮という考え方に大いに賛成します。
  • 配慮申請に対して前向きな大学は増えてきているが、あまり理解が進んでいない大学に進学することになった場合の意見が少しでも参考になればと思う。